17/09
秋の夜も更けた中。私は、山道を登っていた。深夜を越えて、辺りは暗闇。
「ねぇ、ハルナ」
私の手に引かれて後をついてくるミカは、私の名前を呼んだ。もう何度目になるだろう。
「ねぇ、ハルナってば」
「……何」
「覚えてる?」
こんな夜に、こんな獣道のような道を私たちが懐中電灯ひとつで歩けるのは、この山が、昔から遊び歩いた場所だから。
「何を?」
「わたしたちが、最初に会った時の事」
私より少し身長の高いミカの方が、星空に近かった。木々の隙間から、靄のような星々が広がっていた。
「無駄話したくない」
「神経質だね、今日のハルナ」
「当たり前でしょ」
「ピリピリした女はもてないぞ」
「……もてて欲しいの?」
繋いでいた左手を離してやる。
「あっ!待って!」
ミカは焦ってたように私の手に両手で捕まった。
なぜこんなにもミカは軽口を叩けるのか。私には理解が出来なかった。
「じゃあ、着くまで黙っててよ。体力の無駄でしょ」
私の顔は強張っているだろうか。少なくとも笑顔ではないと思う。想像していたより、だいぶ時間がかかっていた。
「無駄なんかじゃないよ」
聞こえてきたのは、辛うじて耳に届くほどの小さな声だった。
「え?」
振り向いても、ミカの表情からその心は読み取れない。ミカは私が見ているのに気づいて、私に笑いかけた。
「あ、別に何でもないから。気にしないで」
「……そう」
良く分からないことを言うのは昔からだから、私はミカと一緒にいるうちに、自然とスルースキルを身に着けていた。でも、そういうよくわからない事を言う時にミカが見せる笑みの個性が、私は好きだった。不思議な魅力があるような気がするのだ。ミカのような人生を歩めば、こんな表情ができるんだろうか。
「でもやっぱりね、今言わないといけない事がある気がするの。ダメ?」
ミカの顔が不意に寄ってきて、私は思わす目を逸らしてしまった。
「……だって、帰ったらにできないの?帰ったら沢山時間あるんでしょ?」
「うーん、そうだけど……でも、今言わなきゃいけない気がするの」
例えば、今日私が懐中電灯を持ってきてなくて辺りが真っ暗だったとしても、その上今程ミカの顔が近くなかったとしても、きっと私は、ミカが今どんな顔をしているかが分かっただろう。一応、ミカは真剣なのだ。長い付き合いから来る諦めに、私はため息をつくしかなかった。
「……好きにして」
「うん」
ミカはニッコリと笑った。その瞳がいつにもまして流れやすく、キラキラと星の光を反射していた。その笑顔はいつにもまして不思議な魅力を持っていた。
「そうだ。喧嘩した時の事、覚えてる?」
ミカが言った。
「初めて会った時の話はいいの?」
「いい事ないけど、別の話の方がしたくなったから」
「……覚えてるよ。そんなに古い話じゃないから」
中学生の時、卑屈になっていたミカの頬を、私が思いっきり引っぱたいた事がある。 それだけが2人が喧嘩したといえる唯一の記憶。ミカは笑顔で言った。
「わたしね、あの時の叩かれた感覚、今でもはっきり思い出せるんだよ。きっと、初めて友達から叩かれたのが衝撃だったんだよね」
「……なんでそんな嬉しそうに言うの」
「だって、嬉しかったんだもん」
「怒られて嬉しいって、意味わかんないから」
「私のために怒ってくれたんでしょう?」
それを聞いて、やっぱり変な子だ、と私は改めて思った。生まれた時から体が弱くて、怒られた記憶がないと自分で言うほど怒られる事のなかった一人っ子。それなのに、私に初めて会った時は、人に嫌われていないかばかりを気にしてビクビクしていたような可哀想な子。
「ハルナがあんなに怒るのって、結構凄い事だよね。ちゃんと見とけばよかったかな」
そう言って笑うミカを見ていると、私はなぜか悲しくなった。その姿は病床に伏せなければならない人間のものとは思えなかったから。まるで、放課後の教室で談笑する普通の少女のようだったから。
突然、私は自分が今、中学校に通っていた当時にいるかのような奇妙な感覚を覚えた。喧嘩した次の日、怒ってるかなと心配していたのに、ミカは私の顔を見ると晴れ晴れとした笑顔で挨拶してきて、驚いてしまった事。あれは一体どういう事だったのか、今やっと分かった気がする。
「……反省の色くらいみせてよ」
「だって中学の頃の事だよ?もう良い思い出だよ。大事な思い出」
「ね、ね。じゃあさ、修学旅行覚えてる?」
「まあ、それなりにはね」
「初日の旅館のお風呂にさ。マーライオンみたいなのあったよね」
「え、そんなのあった?」
「あったよ。それに2人で打たれて滝行したの」
「……全然思い出せない。よく覚えてるね」
「大事な思い出だもん。覚えてるよ」
そんな調子でミカは話し続けた。彼女の笑顔は眩しかった。
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山に入ってから、一体どれくらい経ったろう。段々と遅くなっていく歩調は、そのままミカの歩調に繋がっている。私の中の後悔はどんどん大きくなっていた。
ミカのお喋りが相変わらず元気なのはまだ救いだが、それもまた少しずつ途切れるようになってきていた。
「大丈夫?」
「うん……平気」
そう言って私に笑顔を向けても、その頬はいつもより更に赤くなっていた。私は自然にミカを握る手に力を込めていた。
「病院にいると、ダメだね。体力、全然なくなっちゃう……」
それは本当に体力の衰えだけのせいなのか。
星明りの下の真っ暗な道のりと、重い足取り。近くにあるはずのいつもの原っぱは、今日に限っては遠かった。私は空を見上げた。その先に月は見えなかった。
ミカの病は、現代医療では治せないらしい。10年間、様々な時をミカと過ごしたけれど、私が知る事ができたのはたったそれだけだった。ミカは小学校から様々な医者にかかってきたが、返ってくるのはいつも同じ言葉だった。
『20歳からは、長く生きれない』
そして、その言葉は少し悪い方向にズレ込んでいた。
「高校さ、楽しかったね」
ミカがまた話を始めた。
「そう?」
「えぇ!?ハルナは楽しくなかった?」
「楽しかったというか……」
倒れやすくなったミカが心配でいつもハラハラしていたせいで、楽しむ余裕がなかったというか。
そんな心なんて知らないはずのミカは、信じられないという目で私を見て言った。
「楽しい行事たくさんあったのに!文化祭とか、体育祭とか、テストとか」
「テストが楽しかったの?」
「楽しかったよ。みんなで勉強して、直前に焦って教科書見て、答え合わせして、笑って。楽しかったよ」
「んん?昔『テストいやー!』って言って勉強会飛び出した奴がいた気がするけどなぁ?」
「振り返ると楽しかったの!もう!」
「あはは、ごめんごめん」
ミカは少し怒ってみせたが、すぐ目尻を下げた。
「ハルナ、今日始めて笑ったね」
「……そうだっけ」
「そうだよ」
私は自分を振り返った。重病人を連れ出した責任と焦りで余裕がなかったし、余裕なんてあるべきではないとも思う。けれど、こうして2人で歩くのを楽しく思っている自分も確かに感じた。
「笑ったハルナ好きだよ」
真面目くさった顔で言うので、私は顔を逸らさなければいけなかった。赤くなった顔を見せて、あんまり喜ばせたくない。
「やめてよ」
なんとなくミカが相好を崩した気がした。
「うん、やめる」
ミカの両手が、繋いだ私の手を少しだけ強く握っていた。
「きっとね、みんなより学校にあんまり来れなかったから、余計楽しかったんだと思う」
高校の話の続きだ、とすぐに分かる。
「うん」
「だから普通の小さい事も、よく覚えてるの。授業中に問題間違った事とか、教室で一緒に食べたお昼とか、放課後のお出かけとか。保健室で先生に相談した事もあった……」
「そんな事あったの?」
聞くと、ミカは意味深な笑みを浮かべた。
「……あったよ」
そしてそのまま、思い出すように目を瞑った。
「親友が好きでどうしようもないんです、って」
「……先生はどう答えたの?」
「堂々と告白しなさい、って」
「去年の事……」
「そう」
去年のちょうど今頃の事。
2人が通っている高校の近くの畑には、毎年この時期になると、名の知らぬ白い花が一斉に咲いて、それはそれは美しい光景を見せた。そこに咲く花々は一本一本、線は細いのにキリッと凛々しい。その気高さのためか、この高校の代々の女子生徒達は、よくその地に想いを託した。そして、それはミカも同じだった。何も気づいていなかった私は、その白い花の海に立っているミカを見つけて、駆け寄った。そして、赤面するミカを見る事になるのである。
「堂々と告白しろって、なんか投げやりな感じじゃない?」
私が言うと、ミカは首を振った。
「きっとあの時の私は、誰かに背中を押して欲しかったんだよ。先生はそれを分かってくれたから、言ってくれたんだと思う」
「そっか……」
ミカは明るい声で言った。
「言えて良かった。すっきりしたから」
それは、もうわたしに未練はない、という事だろうか。吹っ切ったという事だろうか。
告白の後、私はしばらく避けられた。当たり前の話かもしれない。自分を振った人間とその後も友達として一緒にいるなんて、辛い事だから。しかし、その間にミカはまた容体が悪化して入院した。寒い冬の日だった。私は迷った挙句に見舞いに行く事を決めて、病院に向かった。また泣いているかもしれない。また落ち込んでいるかもしれない。心配に押されて道を急ぐその途中、ミカからの久しぶりのメールが届いた。なのに、それは「会いに来ないで」とだけ書かれたメール。そんな事は初めてだった。道の真ん中にも関わらず、私はミカにもう会えないのではないかと泣いた。
それから数ヶ月はまたなんの音沙汰もなく、私は食事も喉を通らなかった。しかし、ある日の授業中、唐突にミカから電話がかかってきた。電話の先のミカは泣いていた。耐えられない、辛い、怖い、寂しい。私は教室を駆け出した。
息を切らして着いた病室。数ヶ月ぶりの対面。その先にいたのは、今までと何も変わらない、ただ、友達としての覚悟を決めたミカだった。
振ったはずだった。身勝手なものだと思った。それでも、私は胸がチクっと痛むのを感じずにはいられなかった。
「今頃、病院はどうなってるかな」
ミカが呟いた。
「大騒ぎしてると思うよ。お母さんとかも」
「そうだよね……分かってたけど……」
「じゃあ、やめたら良かったのに」
それにははっきりと首を振った。
「だって、外に出たかったんだもん」
これじゃあわがままな子供だなと、私が苦笑すると、ミカが唐突に立ち止まって私の手を少し引いた。
「どうしたの?」
「今、照らした所……」
と、ミカが道の外れを指差したので、そこに懐中電灯を向けると、そこにスラリとした一輪の白い花が照らし出された。
「あれってさ……」
私はミカの言葉を継いで言った。
「うん、高校の畑に咲いてたのと同じ」
「こんな所にも咲いてるんだね」
ミカは花を見ながら嬉しそうに笑った。
懐中電灯でスポットライトのように照らされているその花は、一輪でも、背筋を伸ばして誇り高く咲いていた。
「綺麗……」
「そうだね」
暫く2人で無言で見ていると、不意にミカが白い花の方へ進み出た。
「え、ちょっと……!」
私は虚を衝かれた。その白い花が咲いていたのは、急斜面だったから。
「わっ!!」
「ミ、ミカ!」
手を伸ばすが、遅すぎる。ミカの体はバランスを崩して斜面にずり落ちた。
急いで明かりを差し向ける。そこには、枯れ草にまみれたミカが寝転んでいた。
「大丈夫!?」
「う、うん。平気……」
答えが返ったきてホッとする。ミカは隣の木に捕まって立ち上がろうとした。しかし、その瞬間
「いッーーー!!」
と弾けるように叫んでまた膝をついてしまった。
「どうしたの!?」
「……足、挫いちゃったみたい」
「とにかく、捕まって」
出来るだけ体を伸ばして、ミカの手を掴んで引き上げようとした。しかし、ミカは挫いた足を庇うのに苦労して、何度も枯葉に滑って転んだり、痛みに呻いたりした。それでもなんとか斜面を登り切り、最後には私が地べたに座って、抱きかかえるようにミカの体を引っ張り上げると、ミカは私に体重を全て任せて、寄りかかった。荒い息だった。
「え、ちょっと!?」
困惑するのも一瞬。私はミカの抱えている熱量に気づいた。
「ミカ、凄い熱!」
ミカは、私の胸の中で、きっとニヤッと笑おうとしながら、言った。
「ばれたか」
「ばれたかじゃないよ!何で言ってくれなかったの!もう限界なんでしょ!」
いや、とうに限界なんて超えていたのかもしれない。ミカは今までもよく無茶をしてきたから。
「まだ、全然大丈夫だよ。ほら、ちゃんと話せてる」
「やっぱり、もう帰ろう」
私はもうミカの言う事を聞く気はなかった。ミカは返事をせず、ただ私の胸に額を預けて、熱い息を吐いていた。
「ミカ」
「あの原っぱに行きたいの。ハルナ」
はっきりとミカは言った。
「もうきっと、こんなチャンスは来ないから。私がまだ元気で、病院の人とか親の目を盗んで、外に出るチャンスなんてきっとないから。だから、最後に一緒にあの原っぱに行きたいの。思い出がいっぱいある、あの原っぱに」
「最後とか言わないでよ……」
ミカはまた黙ってしまった。このままでいるとミカは私の元から逃げていってしまう気がして、私のミカを抱く腕に力がこもった。
「これからも私はミカと一緒にいるよ。それで、原っぱに負けないくらいいっぱい楽しいことしようよ。原っぱなんてまた行けるよ。だから今日は帰ろう」
ミカは静かに首を振った。
「車椅子でもなんでもいいじゃない。原っぱならまた来れるよ。また今度一緒に来よう、ミカ」
また無言で首を振った。私の視界はじんわりとぼやけてきた。
「なんでなの……」
私の心の中は暴風雨のように荒れていた。
「ミカが死んだら、私は生きていけないの」
ミカは、私がミカの事をどれだけ大事に思ってるかわかってないんだ。
「ミカが死んだら、私は死ぬほど苦しいの。何もなくなっちゃうの。どうしようもなくなるの」
私はあなたが好きなの。
「嫌だよ、私、あなたの思い出だけ持って生きていくなんて、そんなの嫌だよ」
あなたのいない世界なんて、考えたくないの。
「お願い。この夜も生き延びて、その次の夜も生き延びて、その次もその次もその次の夜も、生きて。どんな夜も生き延びて。できるだけ沢山、出来るだけ長く。お願い、ミカ……」
私は自分の頬に涙が一条になって流れているのを感じた。ミカは私の胸から顔を上げた。体は本当に限界なんだろう。暗がりでも分かる位にミカの顔は真っ赤で、熱がこもっていた。瞳は零れそうな程潤み、何かに耐えるようにぼんやりと光りながら、私の目を見つめていた。
「ミカ、帰ろう?」
私の言葉に、ミカはゆっくりと頷いた。
「うん……ハルナ、帰ろう……」
私はミカを背負った。もうミカ自身に捕まる力は残っていなくて、ただ、私の胸の前でだらんと垂れる両手の指を、かろうじて結ぶので精一杯だった。私は今まで来た道を下る方に歩き出した。ミカが、小さくか細く聞いてきた。
「重くない?」
「重くないよ」
ミカの体温は私の背中に全て引き受けた。私はただ一心に歩を進めた。
「甘えてもいい?」
ある程度山を下った所で、ミカが耳元で囁いた。
「うん?」
「……私本当は全然吹っ切れてないの。やっぱり、ハルナの事が好き……」
私の心臓がとくんと脈打った。
「でも、そういう気持ちになれないのは分かるから……それでも、一緒にいて。少しの間でいいから」
それは、叶わない夢だと思っていた言葉。
「少しの間なんて、言わないよ」
「……やっぱり優しいね、ハルナ」
「そういう事じゃないよ。私もミカの事が好きだから」
「……変な言い方しないで。意地悪」
「私、告白されて、会えなくなってから……いつもみたいにミカを見れなくなったの。いつもミカの事を考えるようになった。気づいたらミカを見てる。友達じゃダメなんだよ。ミカ、私はあなたが好き」
「……本当?……私、怖い……」
もし嘘だったら、夢だったらどうしよう。その怖さは私にも分かるから、私は、肩にかかるミカの腕に、頬をくっつけて言った。
「本当だよ。これからも一緒にいて、ずっと」
ミカが啜り泣く声を背中で感じながら、私は歩き続けた。
山の麓近くまで来た。山の斜面も緩やかになり、木々が切り開かれて出来た殺伐とした野原が広がっているはず。しかし……
「え……?」
目の前の光景が信じられなくて、私は立ち止まってしまった。
大きく広い野原になっているはずの場所には、あの凛々しい白い花がいっぱいに群生していた。圧倒されるような、見渡す限りの純白。
それは見た事もないような壮麗な景色で。呆気に取られた私は先を急いでいる事も忘れていた。
「ハルナ?」
後ろで泣き疲れて眠っていたミカが身動きして、肩から顔を出した。そして、その驚きが私の体に伝わる。
「どういう事……?」
「わかんない……いつもの道だよ……」
「こんなの見た事ないよ」
「私も」
2人して、呆然と目の前のあり得ない光景を眺めていた。信じられない事だった。行きに通りかかった時には、咲いていなかったはずなのに。
「……夢を見てるのかもね」
ミカがポツリと言った。
「そうかもね」
「こんな綺麗な景色、夢じゃないと変だよ」
「そうだね」
私は少しだけ可笑しくなった。
「ミカと私と、2人で同じ夢を見てるんだ」
「そっか……」
ミカは私の肩に頭を載せて、言った。
「幸せだね」
「うん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
帰ってきたミカは、即座に2日間、集中治療室に入れられた。そして、今日、一般病棟に移動する。
向こうから歩いてくるミカは、パジャマ姿で点滴を転がしながら歩く、昔からよく見たスタイルだった。
待っていられず、私から歩いて近づいた。
「ハル……」
ミカの頬を摘まむ。
「な、なに……?」
何年も冷める事のなかったミカの頬が熱くない。それが、私には少し苦しいほどに嬉しかった。私は頬を放した。
「おかえり、ミカ」
「ただいま!」
ミカの元気な笑顔を見ると、私の鼻にはツンとする感情が湧き上がってきて、慌てて顔を背けた。
「ハルナ?」
ふわっとミカの匂いがする。何とか顔をあげると、ミカは明るい笑みを湛えていた。
「これからなにしよっか。時間はいっぱいあるよ」
目の前には、幸せな未来がやってきていた。
「……ハルナが泣いてる」
「……うるさい」
「可愛い……」
「うるさいってば……」
私は思いっきりミカを抱き寄せた。
「わっ……ちょっとハルナ……」
私の伝えたい気持ちは、声にならなかった。
「……もう」
たまにはいいでしょ?たまには、私が甘えてもさ。
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