024 自動車



      真夏のドライブ

             西山香葉子   

「ずいぶん田舎に来たね、あ、あと5キロだって!」
 助手席で詩織がはしゃいだ。
 つきあいはじめて4年目にして初めての旅行に出ていた。
「うん、あとちょっとで高速降りるよ」
 運転しているリカは答える。
 詩織はポカリスウエットを飲み干した。
 八島リカと川瀬詩織は某中高一貫教育校の先輩後輩として出会い、ほどなく惹かれあって付き合い始めた。
「美咲ちゃんと佳乃ちゃんも連れてきてあげたかったね」
「高校生には無理でしょう」
「佳乃ちゃんストーカーに追われたりしてないかな」
「まだ少年刑務所から出てきてないから大丈夫でしょ」
 二人の高校の後輩2人の名前が出た。
 美咲とリカは高校から、佳乃と詩織は中学からその学校に入学した。美咲は入学して間もなく佳乃と仲良くなりかけたが、佳乃にはたちの悪い奴らが鎖のようについていた。その鎖を壊す手伝いを3人でしたが、そいつらが佳乃にストーカーとして張り付いてくる恐れがある。
 4人で同じ大学に通うことを約束して2年目。リカは1年浪人した。
 その学校にも大学はついているが、佳乃には嫌な思い出しかないだろう、途中で転校してしまったし。ということで別の大学を選択した。
 学部まで合わせるのは、リカと詩織の得意教科が違い過ぎるのでできなかったが。

 夏休みの高原。
 高速を降りてしばらく走ると。
「詩織、パンフレット出して、そこから」
 リカが助手席の前の扉を指すので、詩織が底を開けるとパンフレットが出てきた。表紙は目の前の風景と同じ。
 着いたのはペンションで、パンフレットはペンションのパンフレットだった。
 荷物を置き、夕食まで遊びまわることにした。 

 夏の高原は様々な世代の人々でいっぱいだった。
 地元特製のソフトクリームを食べて、鼻の頭にクリームをつけたリカを笑ったり。もちろん詩織は、
「はい、とれたわよ」
 と取ってあげたが。

「スーパー行って水とか買おう。ホテルの冷蔵庫の中身よりスーパーで買う方が安いって言うし。ホテルと違うかもしれないけど」
「そうだね」
 ペンションから一番近いスーパーまで車で5分くらいだというので二人は再び車中の人となった。

 そしてふたりでキャッキャしながら、水だお菓子だジュースだといろいろ買って、レジに並ぼうとすると、詩織の様子がおかしいのに、リカは気付いた。
「どしたの、詩織」
「トイレに行きたい……」
「もうすぐ終わるよ」
「行きたい……」
「じゃあ出口で待ってるよ」
 詩織は早足で消えた。
 リカは、目の前のレジが一人分進んだのに気付き。カートから買い物カゴをえいっとあげた。

 詩織が消えてから15分経った。お会計は終わり、荷物を詰め終えたところである。
 広いスーパーだから迷ってるのかな。
 普段の詩織はそう方向音痴でもないのだが、ここはいつもと違う土地である。
 手放そうと思っていたカートに荷物を入れて、肩の上でカットしてあるくせ毛を左右に振って、リカは歩き出した。

 18,9のストレートロングヘアのきれいな女の子見ませんでしたか? と言いたいのをこらえて歩き回る。人に聞くのはなるべく最後の手段にしたい。自分たちの本当の関係を知られるには、世の中は、セクシュアルマイノリティに冷たいから。
 車に戻ってるのかな、と思って車の前まで行ってみたが(スムーズに行けたわけではないが)、いない。
 どうしよう、このまま離れ離れになったら。
 車の前を離れようとしたその時。携帯電話が鳴った。
「もしもし、リカ? 迷っちゃった」
「ああよかった、詩織……」
 電話がかかってきてほっとした。だが脱力している場合ではない。 
 冷静になって、
「今目の前に何がある?」
 と聞いた。
「クリーニング屋さん……」
 この電話の声はいつもより少しふにゃっとした声だったと思う。
「じゃそこで待ってて。動かないでよ!」
 たぶん一周すれば見つかる。
 
 詩織はクリーニング屋の向かいのサンダル売り場にいた。
「詩織!」
「リカ!」
「良かったぁ……」
「さ、荷物持って。重かったんだから」
「えー」
「文句言わない」
「はぁい」
「さ、車まで行くよ」
「うん」

 車に乗って。二人ともシートベルトを締めたところで、
「少しドライブしようか」
 とリカ。
「夜の運転大丈夫なの?」
「慣れるためにここで練習」
「えーっ」
「さあ行こう、れっつらごー」
「うう……あ、夜景キレイ!」
 結局二人が帰ったのは午前0時だった。
 ベッドの寝乱れ具合から二人の関係を余計に勘ぐられないように、この日は求め合わずにキスだけして寝た。



 はじめまして、西山香葉子です。このところ同人はweb含めて活動休止状態でしたが、そろそろ復活したいなと思っているところです。
 このお話は、8年くらい前に「BREAK THESE CHAIN」ってタイトルで、集英社のすばる文学賞に応募した小説のその後編になります。自分のサイトではR18指定ページに置いている、フェミ的に考えたらひどい話なのですが、書くごとに女性キャラクターたちに愛着が湧いて、いつか使いたいと思ってたキャラ達なのでした。イメージのもとはマリみての聖と栞だったなんて誰が想像つくでしょう。
 あっちは百合というよりシスターフッドの話なのですが、こちらは恋愛にしてみました。あっちはリカと詩織主人公じゃないし。
 楽しんでいただけましたか? 感想待ってます。
西山香葉子 @piaf7688
http://d.hatena.ne.jp/kayoco/
http://www.interq.or.jp/sun/kayoco/



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