真夏のドライブ 西山香葉子 「ずいぶん田舎に来たね、あ、あと5キロだって!」 助手席で詩織がはしゃいだ。 つきあいはじめて4年目にして初めての旅行に出ていた。 「うん、あとちょっとで高速降りるよ」 運転しているリカは答える。 詩織はポカリスウエットを飲み干した。 八島リカと川瀬詩織は某中高一貫教育校の先輩後輩として出会い、ほどなく惹かれあって付き合い始めた。 「美咲ちゃんと佳乃ちゃんも連れてきてあげたかったね」 「高校生には無理でしょう」 「佳乃ちゃんストーカーに追われたりしてないかな」 「まだ少年刑務所から出てきてないから大丈夫でしょ」 二人の高校の後輩2人の名前が出た。 美咲とリカは高校から、佳乃と詩織は中学からその学校に入学した。美咲は入学して間もなく佳乃と仲良くなりかけたが、佳乃にはたちの悪い奴らが鎖のようについていた。その鎖を壊す手伝いを3人でしたが、そいつらが佳乃にストーカーとして張り付いてくる恐れがある。 4人で同じ大学に通うことを約束して2年目。リカは1年浪人した。 その学校にも大学はついているが、佳乃には嫌な思い出しかないだろう、途中で転校してしまったし。ということで別の大学を選択した。 学部まで合わせるのは、リカと詩織の得意教科が違い過ぎるのでできなかったが。 夏休みの高原。 高速を降りてしばらく走ると。 「詩織、パンフレット出して、そこから」 リカが助手席の前の扉を指すので、詩織が底を開けるとパンフレットが出てきた。表紙は目の前の風景と同じ。 着いたのはペンションで、パンフレットはペンションのパンフレットだった。 荷物を置き、夕食まで遊びまわることにした。 夏の高原は様々な世代の人々でいっぱいだった。 地元特製のソフトクリームを食べて、鼻の頭にクリームをつけたリカを笑ったり。もちろん詩織は、 「はい、とれたわよ」 と取ってあげたが。 「スーパー行って水とか買おう。ホテルの冷蔵庫の中身よりスーパーで買う方が安いって言うし。ホテルと違うかもしれないけど」 「そうだね」 ペンションから一番近いスーパーまで車で5分くらいだというので二人は再び車中の人となった。 そしてふたりでキャッキャしながら、水だお菓子だジュースだといろいろ買って、レジに並ぼうとすると、詩織の様子がおかしいのに、リカは気付いた。 「どしたの、詩織」 「トイレに行きたい……」 「もうすぐ終わるよ」 「行きたい……」 「じゃあ出口で待ってるよ」 詩織は早足で消えた。 リカは、目の前のレジが一人分進んだのに気付き。カートから買い物カゴをえいっとあげた。 詩織が消えてから15分経った。お会計は終わり、荷物を詰め終えたところである。 広いスーパーだから迷ってるのかな。 普段の詩織はそう方向音痴でもないのだが、ここはいつもと違う土地である。 手放そうと思っていたカートに荷物を入れて、肩の上でカットしてあるくせ毛を左右に振って、リカは歩き出した。 18,9のストレートロングヘアのきれいな女の子見ませんでしたか? と言いたいのをこらえて歩き回る。人に聞くのはなるべく最後の手段にしたい。自分たちの本当の関係を知られるには、世の中は、セクシュアルマイノリティに冷たいから。 車に戻ってるのかな、と思って車の前まで行ってみたが(スムーズに行けたわけではないが)、いない。 どうしよう、このまま離れ離れになったら。 車の前を離れようとしたその時。携帯電話が鳴った。 「もしもし、リカ? 迷っちゃった」 「ああよかった、詩織……」 電話がかかってきてほっとした。だが脱力している場合ではない。 冷静になって、 「今目の前に何がある?」 と聞いた。 「クリーニング屋さん……」 この電話の声はいつもより少しふにゃっとした声だったと思う。 「じゃそこで待ってて。動かないでよ!」 たぶん一周すれば見つかる。 詩織はクリーニング屋の向かいのサンダル売り場にいた。 「詩織!」 「リカ!」 「良かったぁ……」 「さ、荷物持って。重かったんだから」 「えー」 「文句言わない」 「はぁい」 「さ、車まで行くよ」 「うん」 車に乗って。二人ともシートベルトを締めたところで、 「少しドライブしようか」 とリカ。 「夜の運転大丈夫なの?」 「慣れるためにここで練習」 「えーっ」 「さあ行こう、れっつらごー」 「うう……あ、夜景キレイ!」 結局二人が帰ったのは午前0時だった。 ベッドの寝乱れ具合から二人の関係を余計に勘ぐられないように、この日は求め合わずにキスだけして寝た。
はじめまして、西山香葉子です。このところ同人はweb含めて活動休止状態でしたが、そろそろ復活したいなと思っているところです。 このお話は、8年くらい前に「BREAK THESE CHAIN」ってタイトルで、集英社のすばる文学賞に応募した小説のその後編になります。自分のサイトではR18指定ページに置いている、フェミ的に考えたらひどい話なのですが、書くごとに女性キャラクターたちに愛着が湧いて、いつか使いたいと思ってたキャラ達なのでした。イメージのもとはマリみての聖と栞だったなんて誰が想像つくでしょう。 あっちは百合というよりシスターフッドの話なのですが、こちらは恋愛にしてみました。あっちはリカと詩織主人公じゃないし。 楽しんでいただけましたか? 感想待ってます。西山香葉子 @piaf7688 http://d.hatena.ne.jp/kayoco/ http://www.interq.or.jp/sun/kayoco/ |